戻る関係と戻らない関係

別れ話を切り出されたのは唐突でした。
もちろん、彼女にとっては唐突でも何でもなく、ずっと前から積み重なっていた気分なのでしょう。じつをいえば私の方でも、どことなく最近よそよそしいな、という空気はうすうす感じてはいたのです。しかし、まさか別れ話を切りだされるようなことはないだろうと、どこかで高をくくっていたのかもしれません。
特に理由があるわけじゃない。嫌いになったわけでもない。
ただ、恋愛感情を持てなくなった。
そう告げられたときには、やはりとても大きなショックを受けました。何か問題や理由があれば、それをどうにかして対処のしようもあるのですが、ただ好きではなくなった、というだけなのですから、もう私にはどうしようもありません。
だからといって、相手の意思を無視してしつこくすがりつくのも、ストーカーの真似をしているようで嫌でした。心のなかではまったく吹っ切れてなどいません。しかし、嫌いになったわけではない、その一言を逆にとらえて、私はショックから立ち直るころにはこのように考えるようになっていたのです。
だったら、友人同士に戻るだけなのだな、と。昔知り合った学生のころのように。
理屈で考えたというよりも、そういう態度を取ることこそが正しいのだと、妙な自信というか、プライドもあったかもしれません。とにかく、ふられたわけではない、ちょっと関係を元に戻しただけなのだと。
彼女もそれには、うなずいてくれました。
そして翌日から私は、まるで何事もなかったかのように、事あるごとに彼女に電話をしたりメールを送ったりしはじめたのです。もちろん、恋人同士のような話題はいっさい出しません。未練がましい気持ちはいっさい抑え、ただ友達として、趣味や当り障りのない日常の話題ばかりをしました。彼女もはじめこそぎこちなかったものの、次第に以前のように自然に応えてくれるようになっていき、いつしか私の気持ちはおかしな満足感でおさまっていったのです。
今にして考えなおしてみれば、まったく頭に血が上っていたとしか思えません。
なぜなら話題の内容はともかく、ただの友達はそんなに頻繁に、些細なことで連絡を取ったりはしないのですから。少なくとも、私たちは友人同士のときにはそんなやりとりはしていませんでした。
結局、私はまったく気持ちを切り替えられていなかったのです。
そうしていつしか勘違いを積み重ねていき、このように昔と同じ付き合いができるのならば、またいつか恋人の関係にだって戻ることもできるのではないか、と私は考えるようになっていました。そして恋愛感情を持てなくなったのならば、ふたたび持てるような人間に私がなればいいのだ、と。
実際、当時の私はおせじにも立派とはいえず、怠惰で、仕事にもあまり集中していないようなありさまでした。きっとそういった点に愛想を尽かされたのだろうと、いよいよ一人で決め込むようになっていたのです。
そうしてあれこれ、自分なりにひっそりと、生活態度を改めて仕事にも精を出し、性格もまた彼女との過去を顧みていろいろと問題点を見つけ、直していくようにしました。
ちょうど、そんなときでした。
すっかり昔の友人時代のような態度に戻り、みずからも話題を振ってくれるようになっていた彼女が、ふとした拍子で私のことを学生時代の懐かしいあだ名で呼んでくれたのです。まるで雷に打たれたような気分で、私は自分でも思わぬタイミングでそれまで隠していた気持ちを、堰を切ったように語り始めていました。
まるで、空気が切り替わるのが電話越しに伝わってくるようでした。
それまで楽しげに笑っていた彼女が、すうっとスイッチが切られたかのように、こういうのはもうやめよう、と切り出しました。その言葉を耳が遠くなるような私は、真っ白な頭で聞いていたのでした。
それが結局、彼女と言葉を交わした最後となってしまいました。
そこにいたってようやく、私は自分の一方的な勘違いに気がついたわけです。後の祭りとはこのことです。
それこそ初めに別れたときよりも深く傷ついて、当時はどん底まで落ち込んだものですが、しかし今となってはそれもとてもよい勉強になったと素直に思えるまでになっています。もはや彼女に対して、真の意味で友人以上の感情は抱いていません。良くも悪くもそれで、やっと私の心も吹っ切れたようでした。
以後も彼女とは連絡を取ってはいませんが、いつか顔を合わせるような機会があれば、そのときこそ自然に――いえ、少し恥ずかしい気持ちで、彼女に声をかけることができるのだろうと思っています。

★やったこと
仕事で結果を出せるようにがんばった

生活態度をいろいろ改めた

おおらかな人間になるよう心がけた